研究概要 |
平成元年度において,本申請者は劇症肝炎モデルを用いて,Epidermal Growth Factor(EGF)がこのような病態肝においても極めて強力にDNA合成を誘導することを明らかにした。その理由としては,障害肝において,肝細胞膜EGF受容体はその数において減少しているが,外因性のEGFとの親和性は正常肝と同じであることから,十分に肝細胞内に取り込むことが可能である。そして,この作用はEGFの経静脈的投与や腹腔内投与より,門脈内に投与した場合がより強力であることが判明した。そこで,平成2年度は,劇症肝炎より更に予後が悪い肝不全状態にあるAcuteーonーChronicについて,EGFが肝再生を促進させうるかどうか,動物モデルで検討した。AcuteーonーChronicについては,ラットに四塩化炭素を慢性投与を行い,肝線維症が完成された時点でガラクト-スアミンを投与し,急性肝障害を発現させることでAOCを作成した。結果として,このような状態においてはEGFの投与においてもDNA合成細胞の増加を肝に誘導できず,AOCは肝再生不全状態であるために予後の改善が全く認められないと結論した。ちなみに,このような肝臓における肝細胞膜EGF受容体数は著しく減少していた。最終年度にあたり,肝再生と肝癌細胞との間の増殖態度の生物学的差異をも検討するため,主にEGF受容体の面から検討を加えたが,用いたHuHー7細胞では極めて多量なEGF受容体の発現が認められ,いわゆるautocrine systemでの増殖形態が強く伺われた。一方,初代培養肝細胞では自己増殖は見られないものの,EGFを培養液に添加することにより,DNA合成細胞を誘導できることから,増殖形態にる差が明らとなった。また,EGFはラット胃粘膜障害に対し防御的に作用することも明らかにし,EGFの広範な臨床応用の可能性を示唆することが出来た。
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