研究概要 |
劇症肝炎の病態は,肝の広範囲にわたる壊死に基づいていることは既に良く知られた事実である。そこで,本申請者はこの死亡率の極めて高い疾患について,救命率を幾らかでも改善するには,このような病態肝に出来るだけ速やかに肝再生を生じさせることであると考え,肝再生因子による治療法の開発に取り組んできた。平成元年から2年までの2年間では,中でもEpidermal Glowth Factor(EGF)について,劇症肝炎の治療法への応用といった観点から病態肝においてどのように肝再生を調節し得るかについて、基礎的に検討した。1.劇症肝炎動物モデルによる検討:四塩化炭素によるラット急性肝障害(劇症肝炎モデル)を用いて,EGFの肝再生促進効果を経時的に検討した。障害作成後第一日目のEGF受容体数は,正常ラットの25%まで減少していた。同時に,肝組織中の内因性EGF濃度も著明に減少していた。この条件下で,門脈内にヒトEGF(hEGF)を10μg/kg投与すると,15分後には肝組織中にhEGF濃度は100倍以上の上昇を認めた。次に,hEGF50μg/kgを12時間毎に腹腔内に投与したところ,第二日目の肝におけるDNA合成細胞数は著増し,EGFが強力な肝再生因子であることが判明した。2.AcuteーonーChoronicモデルにおける検討:劇症肝炎において,EGFは肝再生に強力に作用することを明らかにしたが,劇症肝炎よりも予後が悪いAcuteーonーChronic(AOC)について,肝再生の面から検討した。AOCの病態モデルとしては,四塩化炭素漫性投与によるラット慢性肝障害にガラクト-スアミンによる急性肝障害を生じさせることで作成した。このような病態肝ラットにhEGFを投与しても,全くDNA合成細胞を誘導できず,AOCは肝再生不全状態と結論され,そのために予後が極めて悪いものと理解できた。
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