血清α-フェトプロテイン(AFP)を、レクチン親和電気泳動で分画することによって得られるバンドのうち、レンズマメ・レクチン-A(LCAーA)に親和性を有するAFP-L3および赤血球凝集性インゲンマメ・レクチン(E-PHA)に親和性を有するAFP-P4の割合が肝細胞癌で高頻度に増加し、AFPの増加を伴う慢性肝炎および肝硬変と肝細胞癌の鑑別に有用なことに着目し、AFP-L3ないしAFP-P4の増加を認めるが、画像的に肝細胞癌の限局性病変を証明し得ない肝硬変例の経過を観察し、肝細胞癌の発生に関し検討を加えた。レクチン親和電気泳動によって分離したAFPバンドを染色するための抗体親和転写法と酵素抗体法に必要な抗AFP抗体の下(ab')_2分画は、平成元年度に本研究費で購入した設備のクロマトチャンバ-を用いて作成することが出来た。また同年度の本研究費で購入したインテグレ-タ-・クロマトコ-ダ-を、従来からの設備品としてのデンシトメ-タ-に接続することにより、分離染色したAFPバンドの濃度分布を効率よく、再現性をもって定量することが可能になった。これらの方法を用いて今までに得られた結果を総合すると、AFP-L3、AFP-P4測定時に画像的に肝の占拠性病変を認めなかった56例および肝の占拠性病変を認めたが肝細胞癌の確定診断に至らなかった2例のうち、AFP-L3およびAFP-P4が陰性の51例では、少なくとも2年以内に4例肝細胞の発生をみ、そのうち2例はAFPのレクチン反応性の変化を伴った。一方、AFP-L3ないしAFP-P4の増加を認めた5例は、1年10ヶ月以内に全例画像的に肝細胞癌と診断された。画像ないし生検で不確定の2例も半年以内に腫瘤陰影の増大から肝細胞癌と診断され、AFP-L3およびAFP-P4の肝細胞癌の前臨床診断としての意義が明らかになってきた。境界病変でのAFP上昇例は今後例数を重ねて検討を続ける予定。
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