研究概要 |
本研究では、免疫組織学的手法およびウエスタンブロット法により、胃粘膜上皮に同定されるフィブロネクチン(FN)関連物質の局在意義を追究すると共に、本物質の生理学的・病態生理学的役割について検討した。 1)ポリクロナ-ル抗FN抗体,FN分子のC端および細胞接着ペプチド(CBP)に対するモノクロナ-ル抗体は、主として胃底腺粘膜深層の主細胞と反応した。後者のモノクロナ-ル抗体は、増殖帯細胞および胃小窩細胞の基底膜と反応したことから、本物質が細胞回転,分化および組織修復機転に関与している可能性が示唆された。 2)ウエスタンブロット解析により、本物質がFN分子のCBPを含むC端フラグメント(約70kD)である可能性が明らかにされたが、ヒトとラット間では抗FN抗体の対応抗原に差異が見い出された点が注目された。 3)胃底腺粘膜内FN関連物質は、ラットにおけるエタノ-ル胃内投与により用量および時間依存性に減少した。潰瘍指数は増加し、逆にFN関連物質は鏡像を呈するかのごとく減少した。PGE_2、SH基剤システアミンおよびシメチジンは、有意にエタノ-ルの粘膜傷害作用を抑制し、FN関連物質の減少を用量依存性に防止した。 4)インスリン低血糖による迷走神経刺激は、このFN関連物質を一過性に減少させたが、ガストリン刺激はむしろ増加傾向を示し、さらに興味深いことには増殖帯細胞にもFN関連物質の出現を招した。 以上の成績から、塩酸およびペプシンを活発に分泌する胃底腺粘膜の深層に分布するFN関連物質は、同部位の生理学的環境および病態生理学的変化に対して、絶えず防御的役割を演じている可能性を推測させた。さらに本物質の局在には、神経・体液性調節機構ばかりでなく内因性プロスタグランディン,SH基物質およびH_2受容体によってもメジェ-トされている可能性が強く示唆された。
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