本研究により以下の新知見を得た。 1.頚動脈洞神経と頚部迷走神経を切断することによって、末梢化学受容器からの求心性入力を除去したネコで実験を行った。なお、人工呼吸により、動脈血の酸素分圧と炭酸ガス分圧が正常範囲内になるように換気量を調整した。呼吸中枢からの出力として横隔神経活動をモニタ-した。このような条件下で、中枢性の低酸素負荷を与える目的で、一側椎骨動脈に挿入したカテ-テルから、窒素ガスで飽和した(無酸素)生食を注入すると、呼吸抑制と血圧上昇が誘発された。この反応は注入後、直ちに出現することから、椎骨動脈の還流域である下部脳幹に、呼吸抑制を誘発する構造があると考えられた。更に、中脳レベルで除脳した動物でも、同様の反応が出ることから、低酸素性の呼吸抑制は橋・延髄の領域で発生することが明らかとなった。 2.上記の低酸素負荷に応答する神経を延髄領域で探索した。候補となる神経は延髄網様体の持続性に発射(呼吸性リズムを持たない)ものである。この領域には、呼吸との関連で、いわゆる中枢性化学受容器の存在が知られているので、はじめに、この点を検討した。窒素の代わりに、炭酸ガスで飽和した生食を椎骨動脈から注入すると、呼吸の亢進がおこるが、それと完全に対応する時間経過で活動亢進する神経が同定され、それらは中枢化学受容器の構造に関連するものと考えられた。一方、低酸素負荷で反応する神経も、延髄網様体で発見されたが、それらの分布は、中枢性化学受容器に関連するの神経よりも、吻側延髄にあり、比較的腹外側に多いことが明らかとなった。
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