研究概要 |
肺葉切除(PNX)後,残存肺にみられる代償機転については不明の点が多い。PNX後の代償は年齢依存性であり老齢期よりも幼若期の方がより完全なる代償が成立することが知られている。そこで成熟肺胞が形成される以前の幼若ラットを用いてPNXを実施,代償機転の形態学的,生化学的検討を行った。(方法):生後2週齢のラットに左肺葉切除術施行(P群)。術後1,2,3,4週目に屠殺。対側肺(右側のみ)を対照群(両側肺)(C群)と比較した。(結果):体重は術後4週目までP,C間に有意差認めず。湿肺重量は1週目,肺容量は術後3週目にP,C群が略一致した。この時点での形態計測では平均肺胞壁間距離,肺内各構成成分の容積地率にはP,C両群間に差はなかった。また抗Brdu抗体による細胞増殖をみると術後1週目ではP群の胸膜中皮細胞の標識率がC群より高く,次いで2日目では内皮細胞,間質細胞の標識率の増加がみられた。DNA polymeraseはP群は術後1日目に鋭い増加をみとめ,更に術後1週目に再度の活性上昇をみた。DNA量はP群の術後3日目より増加,術後3週目でP,C群は一致した。collagen,elastin含量も同時期に両群で一致した。(考察及び結論):1)生後2週目ラットのPNXでは成熟ラットの場合と異なり代償された肺胞構造は正常に近いことが形態学的,生化学的に判明した。2)術後早期にみられる胸膜中皮細胞の増殖は,これが代償刺激の第一作用部位であることが示唆された。3)術後24時間でDNA polymerase活性の増加を認めたことから代償作用が術後早期に開始されることが推定された。
|