研究概要 |
タイラ-ウイルス(TV)はピコルナウイルス科に属し、2つの亜群に分けられる。GDVII亜群はマウスに急性の脳脊髄炎を起こすが、DA亜群はマススの血清・髄液中の中和抗体価が高いにもかかわらず、その脊髄に持続感染し、脱髄を引き起こす。その脱髄の病理像は多発性硬化症と類以しており、その動物モデルとして注目されている。 従来、両亜群の際だった生物学的性状の差異の一要因として髄鞘支持細胞であるオリゴデンドログリア(OL)に対する親和性が両亜群で異なるためであると考えられてきた。我々はこの点を明かにするために一つは組換えウイルスを用いて、一つは細胞培養の系を用いて、検討した。 まず第一段階として、既に得せれているDA株の3つのcDNA(Virology 164:245ー255,1988)を相互に連結し、全ウイルスゲノムをカバ-するcDNAを作製した。ついでこのcDNAをL細胞にtransfectさせ、cDNA由来のウイルスを得た。このウイルスをマウス脳内に接種したところ、数カ月後に炎症細胞浸潤を伴った脱髄を引き起こし、このウイルスがDA株本来の生物学的性状を保持していることを確認した(J.Virol.63:5492ー5496,1989)。これにより現在作製中のGDVII株の感染性cDNAとの組換えウイルスが作製が可能になり、ウイルスのどの部位が神経細胞、またはOLに対する細胞親和性を担うのか、ひいては脱髄の責任部位なのかが判明するであろう。 次いで、我々はマウスのOL初代培養系を用いて、両亜群のOLに対する親和性に差異があるかどうかを検討した。ウイルス接種13時間後から、両亜群共に細胞変性効果が認められ、抗TV抗体、抗ガラクトセレブロシド抗体を用いた二重免疫染色でもOL細胞質内にウイルス抗原が確認された。また両亜群の増殖曲線にも有意の差は認められなかった。これにより従来考えられてきたこととは異なり、OLに対する親和性により両株間の生物学的性状の違いを説明することができないことが in vitro で示唆された(Arch Virol 114:293ー298,1990)。現在、動物実験により GDVII株の OLに対する親和性を in vivo で確認中である。
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