重症筋無力症(Myathenia gravis:MG)は、日本人ではHLA-DR8、DR9と相関を示すことが報告されているが高い相関ではない。そこでさらに高い相関を示すHLA抗原を検索したところ、30才以下の若年発症の女性でDRw53の有意な増加が認められた(94.1%、P<0.01、R.R.=9.0)。またHLA-B9、-Cw7も患者で有意な増加がみられ、DRw52は有意な減少がみられた。この事実は日本人のMG患者にはDRw53を有する若年発症の女性のグル-プのほか、HLA抗原と相関を示さない男性と晩年発症の女性の2つのグル-プがあることを示している。つぎにMGの発症の要因を遺伝子レベルで明らかにするために、HLAクラスII抗原DRβ、DQα、DQβ、DPβ鎖のcDNAプロ-ブを用いたRFLP(restriction length polymorphism)解析によるHLA DMAタイピングを行った。その結果、DQβ cDNAプロ-ブを用いた場合、BamHI 65kbまたは8.2kbのバンドが25人中19人(76%、P<0.0001、R.R.=14.3)の患者にみられるのに対し、健康人では22人中4人(18.2%)であった。一方、DRβ、DQα、DPβ鎖のcDNAプロ-ブを用いた場合には患者と健康人の間に有意な差を示すバンドは認められなかった。また、MGの発症にMHCクラスII抗原が関与していることはアセチルコリンレセプタ-(AchR)の投与により発症する疾患モデルマウスにおいて、AchRの投与にもかかわらずMGの発症に抵抗性のマウス(B6^<bm12>)は、I-Aβ鎖の3つの塩基のみに置換があることが報告されている。そこでマウスのI-A遺伝子に相同性を示すDQB1遺伝子でこのMGの発症の感受性に関与するアミノ酸を調べた。その結果、欧米人ではDR3、DQw2、日本人ではDRw53、DQw3がMGとそれぞれ高い相関を示し、DQw2とDQw3では70番目のアミノ酸がArgでありDQw1ではGlyであり、DQβ鎖の多型性がAchRの免疫応答性とMGに対する疾患感受性に関与していることが推定された。今後、DQβ鎖遺伝子とその周辺領域のクロ-ニングと構造解析を行い、MGの発症の分子機構の解析を進めて行く予定である。
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