正常ヒト脊髄前角細胞の突起、とくに近位部軸索を光顕および電顕で検索した。ヒトのaxon hillock(AH)+initial segment(IS)の距離は47.5から110.0μmで平均64.0±12.3μm(average±SEM)であり他動物(たとえばネコ)よりも長いことがわかった。また、ISの最小径は1.32μmから3.92μm、平均2.40±0.30μm(average±SEM)であった。ヒトのAHおよびISの超微細構造をはじめて明らかにしたが、ネコ等の動物と基本的には同じであった。すなわち、AHの電顕像はニュ-ロフィラメントが軸索に集束してみられ、ミトコンドリアのほかときに粗面小胞体が認められた。AHの表面にはときにシナプス装置がみせれた。ISの細胞膜は、一層の電子密度の高い物質すなわちundercoatingから成り、IS内には縦軸方向に走る多数のニュ-ロフィラメントのほか、ミトコンドリア、ライソゾ-ム、滑面小胞体、dense bodiesなどの細胞小器官が認められた。一方、ヒトの樹状突起は軸索と違って原則的には髄鞘におおわれず、通常は、Nissl顆粒を含有していた。神経細胞体は通常数本の樹状突起を有し、樹状突起は細胞体から出ると遠位部に向って次第に細くなり、分枝部でいくぶん太くなる傾向があった。電顕では、ニュ-ロフィラメント、ミトコンドリア、Nissl substanceなどの細胞内小器官が認められた。樹状突起の表面には通常数回のシナプス装置がみられ、同部位ではNissl顆粒がしばしばみられた。これらの知見は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の脊髄前角細胞の神経突起(軸索および樹状突起)の変化を検索するにあたって不可欠の所見である(Acta Anatomica in press)。
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