研究概要 |
臨床経過6カ月の運動ニュ-ロン疾患の1症例を用いて,脊髄前角細胞と直接連続する近位部軸索の腫大を電子顕微鏡で検索した。神経細胞体から直接突出する軸索が総数48本認められ,そのうち35本は正常構造を示し,他の7本は腫大していた。正常にみえる軸索は,通常,正常にみえる胞体と連続してみられ,対照とほぼ同様の超微細構造を示した。一方,7本の軸索の腫大は,initial segment(IS)の遠位部から有髄部軸索におよんでいた。遠位部ISは,主に縦軸に平行に走るneurofilament(NF)から成り,ミトコンドリアなどの細胞小器官から成っていた。有髄部軸索の腫大が大きいものでは,髄鞘は希薄でその径も小さかった。さらに3本の軸索は有髄部軸索の起始部から未梢にかけて管状の腫大を示した。これらの軸索は,主に縦軸に平行に走るNFから成り,その中に細胞小器官が散在して認められた。腫大した軸索と直接連続する胞体には時にミトコンドリアの異常蓄積が認められたが,大部分は正常構造を示した。腫大した軸索と連続するaxon hillockおよび近位部ISは,通常,正常構造を示した。また,腫大した軸索と連続する胞体から突出する樹状突起には明らかな異常は認められなかった。これらの所見は,運動ニュ-ロン疾患では近位部軸索の軸索流が障害され,その結果同部位にNFの蓄積が生ずることを示唆しており,このことが同疾患のpathogenesisと関連している可能性が考えられる。(J Neurol Sci 1990;97;233ー240)。
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