研究概要 |
正常ヒト脊髄前角細胞の突起,特に近位部軸索の光顕的検索で,axon hillock tinitial segmentの距離が他動物(たとえばネコ)よりも長いことがわかった。また,ヒトのaxon hillockおよびinitial segmentの超微細構造をはじめて明らかにしたが,ネコ等の動物と基本的には同じであった。これらの知見は,筋萎縮性側索硬化症(ALS)の脊髄前角細胞の神経突起の変化を検索するにあたって不可欠の所見である(Acta Anatomica 139:26ー30,1990)。臨床経過6カ月の運動ニュ-ロン疾患の1症例を用いて,脊髄前角細胞と直接連続する近位部軸索の腫大を電子顕微鏡で検索した。神経細胞体から直接突出する軸索が総数48本認められ,そのうち7本は腫大していた。軸索の腫大は,initial segmentの遠位部から有髄部軸におよび,電顕では主にneurofilament(NF)の蓄積から成り,腫大した軸索と直接連続する胞体は通常正常構造を示した。これらの所見は,運動ニュ-ロン疾患では近位部軸索の軸索流が障害され,その結果同部位にNFの蓄積が主ずることが示唆された(J neural Sci 97:233ー240,1990)。腰髄前角細胞が比較的よく保たれていたALS3例および下位運動ニュ-ロン疾患1例を用いて,神経細胞体から直接突出する軸索の一見正常と思われるinitial segmentの遠位部の直径をコンピュ-タ-解析装置で測定した。ALS症例では,同部位の直径は対照例に比較して有意に太かった(P<0.001)。一般に対照例では,神経細胞体の面積が大きくなるにつれてinitial segmentの直径もたくなる傾向があるが,下位運動ニュ-ロン疾患症例では対照例に比較して神経細胞体の面積は著明に減らしていたが、initial segmentの直径には差が認められなかった。以上のことから,initial segmentの直径の増大は,前角細胞の初期変化を示しており、運動ニュ-ロン疾患のpathomechanismのひとつとして同部位における病初期の軸索輸送の障害が考えられた(J Neural Sci in press)。
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