研究概要 |
1.ウイルス感染の際のグリア細胞と免疫系の相互作用:神経系の細胞は主要組織適合性(MHC)抗原を表現しておらず,免疫系の統御を免れる特殖な細胞と考えられていた。我々は神経向性のコロナウイルスの感染の際に感染アストロサイト由来の液性因子がグリア細胞にclass I MHC抗原を誘導することを示したが,本年度はヒトレトロウイルスであるHTLVー1のtax遺伝子をグリア細胞にtransfectionすることによってもclass I MHC抗原の誘導がおこることをみいだした。この誘導には液性因子は関与せず,tax遺伝子とMHCをコ-ドする遺伝子との相互作用が推定された。MHC抗原の誘導によりグリア細胞も免疫系の標的となり得るようになり,現在オリゴデンドロサイト系の細胞に同様のtransfectionを行い,MHC抗原誘導の有無によるT細胞との相互作用の検討に着手している。 2.ミクログリアの本能・機能に関する研究:ミクログリアに対するモノクロナル抗体(mAb)を作製した。これらのmAbはすべての組織のマクロファ-ジをも認識した。mAbを用いた組織学的検討から,胎生後期にくも膜下腔に出現した単球系細胞がしだいに脳実質に入りこみ,生後2週以降急速に数を減じ,枝わかれした(ramified)ミクログリアになることが判明した。またin vitroでの種々のサイトカインの効果の検討より,アストロサイト由来の未知の液性因子がミクログリアをramifiedに変化させること,さらにramifiedの細胞は分裂能をもたず,酵素活性も低い休止型の細胞であることが示された。これに対し,γーinterferonはミクログリアを活性化し,コロニ-刺激因子はミクログリアを増殖させた。以上より,ミクログリアとマクロファ-ジの類似性とともに種々のサイトカインがミクログリアの機能を調節していることが明らかになった。
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