多くのスフィンゴリピド-シスにおいては、酵素欠損が見いだされている。しかし、その酵素欠損がどのようにして病態を生じさせるかについては殆ど解明されてはいない。我々は、先に、スフィンゴリピド-シスの1つであるKrabbe病において、絶対量としては大きくはないものの、サイコシン(リゾ型セレブロシド)の蓄積が病変の主座である脳に蓄積することを見いだした。更に、サイコシンは細胞毒であることより、Krabbe病の重篤な神経症状はサイコシンの細胞毒性で説明しうることを示した。一方、他のスフィンゴリピド-シス、例えば、Gaucher病、TayーSachs病でも、リゾ型の脂質の蓄積が報告され、これらにおいても、同様の機序が働いている可能性が考えられた。しかし、これらのリゾ型脂質がどのようにして「毒」性を発揮するかは不明であった。そこで、このことについて検討し、少なくともin vitroでは、サイコシン、リゾ型グルコシルセラミドおよびスフィンゴシンが、細胞呼吸に重要なミトコンドリアのシトクロ-ムCオキシダ-ゼを強力に抑制することを見いだした。その効果は、いずれもシアンとも比肩可能な程であったが、シアンとは異なり、ミトコンドリア内膜の酵素環境を変化させることによることを明らかにした。 また、これらの脂質の作用はいずれも、アルブミンにより抑制された。 このアルブミンによるリゾ型スフィンゴ脂質の「毒」性抑制の背後には、アルブミンの強力な結合作用があることがわかった。このことより、アルブミンの治療(対症的ではあるが)への応用の可能性も考えられた。一方、生物の体内でも生成されうるアンモニアが脳のエネルギ-代謝産物レベルを変化させること、また、内因性「毒」として存在しうるかもしれないアクリルアミドがクレアチンキナ-ゼ(CK)活性を抑制することも見いだした。CKは生体エネルギ-(ATP)レベル維持に関与していると思われることから、これらについても更に検討する価値があるものと思われた。
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