圧負荷が成熟動物心筋細胞に与える影響を観察する目的で、成熟ラット培養心筋細胞を用いた圧負荷心モデルの作成を試みた。体重200gラットの左室より心筋細胞を分離採取し、0.3%I型コラ-ゲン塗布ポリ塩化ビニリデン膜上にて無血清状態にて培養した。このディッシュをシリコンゴムの台に装着し、下部より空気を注入することにより、約40mmHg加わるように工夫した。倒立顕微鏡にて培養細胞を写真撮映し、その最大横径を計測すると、培養直後には圧負荷のない場合平均16.9μであった。圧負荷のない場合、3日目に平均12.3μと減少した。圧負荷のある場合、3日目の横径の値は圧負荷のない場合より平均値は軽度大きい傾向を示したが、有意差は認められなかった。圧負荷の心筋細胞蛋白合成に与える影響をみる目的で、^<14>Cロイシンの心筋蛋白への取り込みを測定した。圧負荷を加えた場合、^<14>Cロイシンの取込みは負荷後3時間目以降軽度の増加を示したが、増加の程度にバラツキが大きく、有意差は認められなかった。ミオシンアイソザイムは圧負荷のない場合、培養3日目まで90%以上がI型で、圧負荷により10〜20%の3型の出現するのが認められた。圧負荷と発癌遺伝子発現については今回検討するに至らなかった。以上成熟心筋細胞を用いた培養実験においては、生化学的変化を定量的に測定することにかなりの困難さを伴うことが明らかとなった。この原因の最も大きいものとして、採取直後〜2時間まで約70〜80%ある桿状細胞が経時的に変形又は死滅するという実験の系として安定性に欠けることが考えられる。従って今後の課題として、このような変化のこないような細胞の採取法、培養条件の開発が必要であると考える。
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