研究概要 |
食塩と高血圧との関連で重要視されているジギタリス様物質をヒト尿から単離し,その化学的性質および生物学的作用とを検討した。大量ヒト尿を出発材料として逆相ならびにゲル濾過高速液体クロマトグラフィ-(HPLC)を主に利用する分離法にてジギタリス様物質を精製した。ジギタリス様活性の指標としては感度および選択性の面から,ヒト赤血球への^3H-ウアバイン結合の抑制活性を用いた。得られた標品につき化学的分析を行うとともに標的臓器の一つとして重要と考えられる血管平滑筋に対する作用を調べた。さらにヒトを含む哺乳類血漿やラット諸臓器での存在についてもHPLCを利用して検討した。逆相C_<18>カラムから18%アセトニトリルで溶出される高極性の非ペプチド性・低分子量のジギタリス様物質が単離された。この物質は酸加水分解・アルカリ加水分解にて活性が消失し,また高濃度の抗ジゴキシンIgG分画との反応にても活性を失った。精製物質は^3H-ウアバイン結合の可逆的・競合的抑制因子であるとともに,イヌ腎Na^+,K^+-ATPase酵素活性の直接抑制およびヒト赤血球へのウアバイン感受性^<86>Rb取りこみの抑制などのジギタリス様活性を示した。その作用はNa^+,K^+-ATPaseに特異的であり,Kと拮抗的であった。血管平滑筋細胞に対してはそのNaポンプ活性調節に関与するとともに,^<45>Ca流入亢進,^<45>Ca流出抑制,細胞内遊離Ca^<2+>濃度上昇およびウサギ大動脈張力の増加をもたらした。さらにHPLC上,同一の挙動を示すジギタリス様物質が哺乳類血漿,ラット諸臓器およびヒト胆汁などに広範囲に存在することが確認された。ヒト尿から単離したジギタリス様物質は広く生体内に存在し,Naポンプに対する哺乳類由来の生体内リガンドと考えられ,血管作動物質として機能している可能性が大きい。今後さらにNa利尿因子としての役割を明らかにするとともに,最終的に化学構造を解明することが必要である。
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