研究概要 |
虚血に対する脳組織の易損傷性には部位より差があることが知られ、この現象(選択的脆弱性)の発生メカニズム解明のためには、虚血負荷の一定化、虚血早期における微小領域の脳血流変化の計測や脳組織各代謝コンパ-トメントの生化学的、組織化学的計測が必須である。本研究では1)再現性の良好な脳虚血を作成し得る砂ネズミの片側脳虚血モデル(脳梗塞易発症砂ネズミ)を確立し虚血負荷の一定化をはかる(Brain Res 479:263,1989;J Cereb Blood Flow Metabol 9:S172,1989)とともに、2)抗MAP2抗体を用いた免疫組織化学的方法を用い、虚血超早期に脳梗塞易発症砂ネズミの海馬などの選択的脆弱性を示す領域に明らかな病変を検出し得ることを示し(Neuroscience 31:401ー411,1989)さらに、3)抗synapsin I抗体を用いた検討によりシナプス終末部が虚血に対して比較的抵抗性であることを明らかとした(J Cereb Blood Flow Metabol 9:S4,1989)。また、4)免疫組織化学的方法により砂ネズミの終脳虚血・再潅流時に見られる海馬領域の選択的脆弱性を明瞭に捉え得ることを示す(Stroke 19:1526,1988)とともに、5)短時間虚血時に本領域に存在すると考えられる微小循環レベルでの不均等な血流変化による活性酸素の生成を、活性酸素生成抑制剤を投与することにより抑制し、本操作が遅発性神経細胞壊死の発生阻害効果を示すことより、本病態におけるフリ-ラジカルの関与を初めて明らかとした(J Cereb Blood Flow Metabol 9:S556,1989)。また、既に海馬の蛋白質を二次元電気泳動法により解析し銀染色法により約860種類の蛋白質の検出に成功し、再現性良好な脳浮腫モデルも確立している。今後さらに、上記病態モデル系において血流変動に応じた蛋白質変動を計測することにより、選択的脆弱性などの脳虚血病態を決定する要因としての微小循環変動の意義を分子レベルより明らかにすることができるものと思われる。
|