背景:生体にとって心臓は血液を循環させるポンプであり文字どおり生存のために不可欠な臓器である。従って心拍出量や血圧は心収縮性に大きく依存するが、一方では負荷条件にも依存する。すなわち同じ心拍出量を得る心収縮性と負荷条件の組み合わせは無数に存在する。生体はどのような基準にもとづき特定の動作点を選択するのであろうか。心臓は代謝エネルギ-を機械エネルギ-に変換するエネルギ-の変換装置であり、生涯にわたり収縮し続けるため莫大なエネルギ-が要求される。従って生体がそのエネルギ-効率を高く保つような基準で動作点を選んでいたとしても不思議ではない。そこで本研究では健常心と虚血心についてそれぞれの収縮効率を検討した。 方法:慢性覚醒犬を用い動脈系の最適性と心室の最適性を検討した。心室から最大の外部仕事を取り出せる動脈系を最適動脈系とし、実際の外部仕事の最大外部仕事に対する比で動脈系の最適性を評価した。最小の酸素消費で末梢の需要(心拍出量および血圧)を満たす心臓を最適心室とし、最小酸素消費の実際の酸素消費に対する比で心室の最適性を評価した。 結果:健常心では安静時も運動中も動脈系と心室の最適性は維持された。虚血性心不全犬では動脈系の最適性は維持されていたが心室の最適性は有意に低下した。カテコラミンで心収縮性を高めると、健常心では動脈系の最適性はむしろ低下したが不全心では何れも増加した。 考察:健常心では動脈系と心室の最適性は安静時も運動中も維持されていた。病的状態においては心室の最適性は低下し、健常心よりも多くの代謝エネルギ-を消費しながら末梢を維持しているのが明らかになった。カテコラミンによる治療は不全心にのみ有効であった。
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