1.研究経過:開心術時に得た病的ヒト心房櫛状筋を1.0×3.0mm大に摘出し、その活動電位と収縮張力を同時記録し、これに対する心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)の効果を検討した。結果を要約すればANP(10^<-6>〜10^<-4>g/ml)は、異常自動能やTriggered Activity、収縮張力に対しては抑制的に作用し、活動電位持続を軽度短縮した。しかしこれらの効果は統計的には有意差が得られず、現在のところ学会発表は差控えている。とはいえ、上記の結果よりANPにより緩徐Ca電流が抑制される可能性が指摘される。そこで平成2年度に計画していた単一庶糖隔絶法を用いた膜電位固定実験を行い、膜電流(特にCa電流)分析を試みた。しかし本法では膜電位の制御が予期した程適切に行えず断念せざるを得なかった。この様な経緯で、現在最も精力的に行っているのは、単離した単一ヒト心房筋細胞のパッチクランプ実験である。まずヒト心房筋標本を正常Tyrode液中で1〜5mm大に細切する。これを37℃において無Ca液に灌流(30分)、次いでcollagenase(0.4g/l)、protease(0.1g/l)を添加(20分)、さらに修正KB液にて灌流(30分)後再度無Ca液にて灌流(10分)することにより、当標本細胞をバラバラに単離出来ることが明らかとなった(新知見)。次いで本細胞をパッチ電極に吸着後、膜電位固定(whole cell clamp)やイオンチャネルの解析(cell attached patch)を行っている。すでに膜電位固定実験により対照としての膜電位対膜電流関係は得られており、またイオンチャネルの記録にも成功した(新知見)。現在これらに対する作用機序の明らかな薬剤(acethlcholine、nicorandil)の効果を検討中である。2.研究の展望:上述の実験を基礎にして平成2年度は、単一ヒト心房筋細胞に対するANPの効果について膜電流、単一イオンチャネルレベルで研究と、これに平行して単電極膜電位固定を活用した膜電流分析も遂行し、当標本に対するANPの電気生理学的直接作用を明らかにしたい。
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