(1)アンジオテンシンII(AII)の神経細胞内における局在性の検討:Wistar系ラットの脳ホモジネイトから、ショ糖密度勾配遠心法により核、ミトコンドリア、ミエリン、マイクロゾ-ムおよびシナプトソ-ム分画を分離し、各分画中のAII濃度(pg/mg蛋白)をSep-PakC_<18>ミニカラムを用いて抽出、測定したところ、シナプトソ-ム分画が最も高く(60±14)、次いでミトコンドリア分画(38±9)、マイクロゾ-ム分画(22±10)、ミエリン分画(16±9)および核分画(15±7)の順であった。(2)II生成および放出の検討:生後2週齢のWestar系ラットの脳から、視床、視床下部および中脳を採取し、それぞれ無菌的にRPMI1640培地を用いて0.5〜8時間組織培養し、培養液中のAIIをSep-pakC_<18>ミニカラムを用いて抽出、測定した。組織のviabilityを培養液中の乳酸脱水酵素(LDH)活性を同時に測定することにより検討した。その結果、AIIの放出は中脳(180±42pg/8h)が最も多く、次いで視床下部(98±24pg/8h)、および視床(36±6pg/8h)であった。培養液中のLDH活性は、いずれの分画とも前値7.5〜8.7U/lから8時間後7.8〜8.9U/lとほヾ不変であった。(3)脳内AII放出機序の検討:生後2週齢のWistar系ラットの中脳を(2)におけると同条件下で組織培養し、培養液中にβ受容体遮断剤(プロプラノロ-ル)および刺激剤(イソプロラレノ-ル)、ならびにα受容体遮断剤(ヨヒンビン;いずれも10^<-9>〜10^<-6>M)を添加し、AII放出に対する効果を検討したところ、プロプラノロ-ルおよびイソプロテレノ-ルともに、AII放出に全く影響を与えなかったが、ヨヒンビンは要領依存性にAII放出を促進した(最大240%)。(4)結論:脳内(神経細胞)内AIIは、自律神経系の中枢である中脳、視床および視床下部組織のシナプトソ-ム小胞に貯蔵され、その分泌機序には交感神経α受容体が重要な役割を演ずると考えられる。脳内AIIは細胞外に放出されてのち、その脳内受容体と結合することにより、血圧調節に関与すると推察される。
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