研究概要 |
(目的)急性心筋梗塞に合併する重症ポンプ失調の機序を解明するため、成犬の冠動脈閉塞モデルを用い、左室収縮期圧(LVSP)の有意に低下した群における非梗塞部心筋の代謝障害について血行動態、心筋血流量(MBF)、心拍出量(CO)と対比検討し、更にカテコ-ルアミン(DOA,DOB)及びホスフォジエステラ-ゼ阻害薬(AMN)の心筋保護効果を研究した。(方法)雑種成犬50頭において回旋枝を基部で結紮しLVSPが70%以下に低下した群(D群)と非低下群(ND群)に分けた。水素クリアランス法でMBF、熱希釈法でCOを測定。D群、ND群では冠結紮120分後、そして群の一部に、心摘出30分前よりDOA,DOB及びAMNを点滴静注した。非梗塞部(NIZ)及び梗塞部心筋(IZ)から遠心分画法により小胞体(SR)、ミトコンドリア(Mt)を抽出しSR CaーATPase活性測定やSR蛋白分画の定量、及びMt呼吸活性、電子伝達系酵素群活性を測定した。さらに超微形態学的観察も行なった。(結果)D群ではCOも有意に低下し、NIZにおけるMBFもNDのそれに比し60%にまで低下し、同時にCaーATPase活性や呼吸活性、電子伝達系酵素群活性も有意な低下がみられたがSRのATPase主蛋白は保たれていた。これら心原性ショック状態における血行動態等改善の目的で用いたDOA,DOBにおいてはCO及びMBFの改善と伴にMt呼吸活性の回復をみた。AMNにおいてはCO,MBFの改善を認めないにもかかわらずMt機能の回復が同様に示された。超微形態学的にもND群NIZでは正常心筋と変らなかったが、D群NIZでMtの軽度の膨化、融合がみられ、これら変化がDOA,DOBそしてAMNで軽減された。(考案、結語)心筋梗塞に伴う重症心不全の発症機序としては梗塞サイズの大きさによるとの報告が多い。本実験においてはNIZのMBF低下と伴にSR及びMtの機能低下がみられ冠潅流の障害に基ずく悪性循環が形成され、DOA,DOBは血行動態を改善することにより、AMNは直接心筋に作用しD群のNIZの代謝を改善すると推察された。
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