β-ケトチオラ-ゼ欠損症の分子生物学的検討

1989 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 01570522
• 研究機関: 岐阜大学
• 研究代表者: 山口 清次 岐阜大学, 医学部附属病院小児科, 講師 (60144044)
• キーワード: 先天代謝異常 / 有機酸代謝異常症 / β-ケトチオラ-ゼ欠損症 / 酸素生合成障害 / ケト-シス

研究概要

β-ケトチオラ-ゼ欠損症は、イソロイシンおよびケトン体の代謝過程の先天的障害に基づいて起こる有機酸代謝異常症である。最近我々は、本症の病因が、知られている4種類のチオラ-ゼのうち、ミトコンドリアの短鎖型チオラ-ゼ(以下チオラ-ゼ)の生合成障害によることを、初めて明らかにした(J.Clin.Invest、1988)。今年度は複数の患者の細胞を用いて、その酸素生合成障害メカニズムにおける遺伝的異質性を明らかにした。さらに末梢血液を用いて行う簡便な酸素診断法について検討した。これまでの研究結果は以下の通りである。
(1)本症患者5例の細胞を受け入れ、免疫生化学的手法によって酸素欠損メカニズムを調べた。さらに今年度新たに2症例を発見した。(2)7例全例ともにチオラ-ゼ活性は欠如していた。しかし全例に少量のチオラ-ゼタンパクが検出された。(3)それらの異常チオラ-ゼタンパクの分子サイズ、タンパク寿命は患者によって差がみられ、酸素欠損メタニズムに異質性のあることが示された。(4)患者にみられた異常チオラ-ゼタンパクは、7例ともにミトコンドリア内に局在していた。(5)異常チオラ-ゼタンパクの前駆体の検索を試みたが、全例ともに検出感度以下であった。(6)末梢血リンパ球を用いて、チオラ-ゼ酸素活性、およびイムノブロッティングによる酸素診断の可能なことを確かめた。(7)さらに羊水細胞でも酸素診断の可能なことを確かめた。このことは、本症の出生前診断の可能性を示唆した。
最近、我々は本酸素のcDNAクロ-ニングにも成功したので、以上の酸素タンパクレベルでの欠損メカニズムの異質性をふまえて、RNA、DNAレベルでの以上解析も可能になるものと思われる。

研究成果

• [文献書誌] H.Nagasawa,S.Yamaguchi,T.Orii、RBH.Schutgens,L.Sweetman,T.Hashimoto: "Heterogeneity of defects in mitochondrial acetoacetyl-CoA thiolase biosynthesis in fibroblasts from four patients with 3-ketothiolase deficiency." Pediatric Research. 26. 145-149 (1989)
• [文献書誌] T.Fukao,K.Kamijo,T.Osumi,Y.Fujiki,S.Yamaguchi,T.Orii,T.Hashimoto: "Molecular cloning and nucleotide sequence of cDNA encoding the entire precursor of rat mitochondrial acetoacetyl-CoA thiolase" J.Boichemistry. 106. 197-204 (1989)
• [文献書誌] H.Nagasawa,S.Yamaguchi,T.Orii,RBH.Schutgens,L.Sweetman: "3-Ketothiolase deficiency:Heterrogeneity in a defect of mitochondrial acetoacetyl-CoA thiolasebiosynthesis in fibrolasts from four patients." J.Inherited Metabolic Disease. 12. 368-372 (1989)
• [文献書誌] 清水信雄、山口清次、折居忠夫: "ジカルボン酸尿症におけるカルニチンの検討" 日本医用マススペクトル学会講演集. 14. 139-142 (1989)
• [文献書誌] 八十嶋弘一、飽津泰史、楠幸博、伊丹儀友、萬丸博幸、武越靖郎、荒島真一郎、岡安多香子、浅野嘉文、野々村克也、松野正、山口清次: "原発性高シュウ酸尿症II型(L-グリセリン酸尿症)の1例" 日本小児科学会雑誌. 93. 2091-2097 (1989)
• [文献書誌] S.Yamaguchi,T.Fukao,H.Nagasawa,T.Orii,N.Sakura,RBH.Schutgens,L.Sweetman Y.Fujiki,K.Kamijo,T.Osumi,T.Hashimoto: "Fatty Acid Oxidation:Clinical,Biochemical,and Molecular Aspect,(ed.by K.Tanaka and P.Coates)" Alan R. Liss,Inc., 728 (1990)