研究概要 |
βーケトチオラ-ゼ欠損症は間歇的に起こるケト-シス発作を主徴とする有機酸代謝異常症である。本症は、哺乳類で知られている4種類のチオラ-ゼのうち、ミトコンドリア・アセトアセチルーCoAチオラ-ゼ(T2)の欠損によって起こり、遺伝形式は常染色体劣性遺伝であることが知られている。我々は本症の病因を分子生物学的な面から解明することを目的として、免疫生化学的手法で酵素をタンパクレベルで解析し、さらにヒトのT2cDNA,および遺伝子のクロ-ニングを行い、遺伝子レベルでの解析を行った。本研究によって得られた主な成果は以下の通りであった。 (1)12例の患者の細胞を用いて、タンパクレベルでの解析を行った結果、検出されたT2タンパクの分子サイズ、量、寿命のちがいから、少なくとも6つの群に分けられた。(2)比較的採取しやすいリンパ球、直腸粘膜を用いても、酵素活性、イムノブロットによって本症の酵素診断が可能なことを確認した。(3)ヒトのT2cDNA,およびT2遺伝子のクロ-ニングを行った。この結果、T2cDNAは427個のアミノ酸をコ-ドする1281個の塩基から成っていること、T2遺伝子は全長約27万塩基からなり、12個のエクソンを含んでいることがわかった。(4)患者のRNA発現を調べたところ(ノ-ザンブロット)、その発現量は患者によって差がみられ、RNA発現のレベルでも異質性のあることがわかった。(5)PCR法を用いて遺伝子解析を行ったところ、1例の患者において、一方のalleleではエクソン6上の点変異、他方のalleleではエクソン8のスキッピングからなるヘテロ接合体を見いだした。(6)このエクソンスキップの原因はイントロン8の5'スプライスサイトにおける点変異であることも判明した。今後さらに患者および家族の解析を進め、本症の病因および遺伝的背景を明かにしてゆきたい。
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