小児期から思春期にかけて、同年令者のなかで血圧が高値をとる者は年を経てもやはり血圧が高く、低値の者は同様に低値をとること、即ちトラッキング現象が存在することが知られている。血清コレステロ-ルに関しても同様である。従って小児期に血圧高値や血清コレステロ-ル高値が持続する場合は将来高血圧や高脂血症に移行する可能性が大である。これら成人病ハイリスクグル-プと考えられる小児についての安静時の循環動態の検討から左室の軽度の拡張機能低下がみられることを初年度の研究で指摘した。昨年度はこれらの群に属する6〜15歳の小児にエルゴメ-タによる運動負荷を行い、運動負荷時の左室拡張機能の検討を同年令の正常小児をコントロ-ルとして行なった。今年度は9〜18歳の小児を対象に昨年と同様運動負荷による左室拡張機能の検討を継続した。血圧高値男子3名、血清コレステロ-ル高値男子3名、正常コントロ-ル男子5名に対しエルゴメ-タ-による運動負荷を行い、心エコ-による心機能の解析を行なったところ、血圧高値群は他の群に比し、早期より心拍数上昇・血圧上昇を認めた。負荷に対する心収縮力の増強は充分であり、心予備能は充分保たれていた。左室拡張機能の低下が運動負荷にて明らかとなる症例が存在した。血清コレステロ-ル高値群では昨年の症例とあわせて全体としてみると、左室等容拡張時間の延長・左室内径最大拡張速度の低下といった左室拡張機能低下が安静時にも認められ、運動負荷にてより顕著となった。血圧高値群に対するよりも血清コレステロ-ル高値群に対する運動負荷のほうが再現性が高い傾向にあった。今回の結果は、成人病ハイリスクグル-プと考えられる小児については潜在する心機能低下に注意して経過観察していくことの重要性を示唆するものである。
|