心疾患における心筋ミオシン重鎖mRNA遺伝子発現の動態

1989 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 01570551
• 研究機関: 東京女子医科大学
• 研究代表者: 松岡 瑠美子 東京女子医科大学, 附属日本心臓血圧研究所循環器小児科, 助手 (50120051)
• 研究分担者: 河田 正明 東京女子医科大学, 附属日本心臓血圧研究所循環器小児外科, 助手 (30177703) ; 黒沢 博身 東京女子医科大学, 附属日本心臓血圧研究所循環器小児外科, 助教授 (50075511) ; 今井 康晴 東京女子医科大学, 附属日本心臓血圧研究所循環器小児外科, 教授 (30075246) ; 今村 伸一郎 東京女子医科大学, 附属日本心臓血圧研究所研究部, 助手 (00176497) ; 高尾 篤良 東京女子医科大学, 附属日本心臓血圧研究所循環器小児科, 教授 (70075167)
• キーワード: 心筋ミオシン / ミオシン重鎖遺伝子 / 心筋収縮蛋白 / メッセンジャ-RNA

研究概要

心筋の収縮に関与する重要な収縮蛋白の1つであるミオシン重鎖(MHC)遺伝子はα、βの2種類が存在し、この発現は、ホルモンおよび血行動態により制御されている。またこれらの因子によるMHC遺伝子発現は、蛋白レベルに先行して起こることが確認されている。本研究では、ヒト心筋MHC遺伝子発現の動態を知る方法を確立し、病因ならびに病状の変化をより早期に把握する道を開くことを目的とする。
従来、ピロリン酸ゲル電気泳動法ではヒト心筋MHCアイソザイムの分離がしがたく、またモノクロ-ナル抗体法ではその比が求めにくいことにより、ヒト心筋α、β-MHCを解析することは困難であった。本研究では、SIヌクレア-ゼマッピング法によりα、β-MHCmRNA遺伝子発現の比が正確に検出できることを確認した。このS1ヌクレア-ゼマッピング法を用いて、容量負荷、圧負荷を示す先天性心疾患における心筋のα、β-MHCmRNA遺伝子発現を調べ、この方法の臨床応用への有用性について検討した。チアノ-ゼ性(ファロ-四徴症、大血管転換症)、非チアノ-ゼ性(心房中隔欠損症、心内膜床欠損症、心室中隔欠損症)心疾患患者を、右室圧が左室圧より高い群と低い群に分け、手術時に採取されたこれらの心筋を直ちに-80℃の液体窒素中で凍結保存し、フェノ-ル抽出法によりRNAを抽出した。これらのRNAに(α-^<32>P)cordycepinを3'末端に標識したヒト心筋MHC-DNAをプロ-ブとしてS1ヌクレア-ゼマッピング法を行い、容量負荷、圧負荷の変化と、α、β-MHCmRNA遺伝子発現の変化を比較検討した。その結果、β-MHCmRNA遺伝子発現の増加と容量負荷、圧負荷の程度の増大とはよく相関することが確認できた。
本法は従来困難とされていたヒト心筋α、β-MHCの解析を可能にする有効な一方法として、臨床に応用しうると考えられる。

研究成果

• [文献書誌] 松岡瑠美子: "遺伝子工学を導入した心臓病成因解明へのアプロ-チ" (財)日本心臓血圧研究振興会昭和62年度研究業績集. 1-25 (1989)
• [文献書誌] Rumiko Matsuoka: "Human cardiac myosin heavy chain gene mapped within chromosomal region 14q11.2-q13." Am.J.Med.Gen.32. 279-284 (1989)
• [文献書誌] 松岡瑠美子: "脊椎動物の進化に伴う心臓の発達--心筋ミオシン重鎖に関する生化学的、遺伝子工学的アプロ-チ" (財)日本心臓血圧研究振興会昭和63年度研究業績集. (1990)
• [文献書誌] Shin-ichiro Imamura: "Local response to cardiac overload on myosin heavy chain gene expression and isozyme transition." Circ.Res.(1990)
• [文献書誌] Shin-ichiro Imamura: "Adaptational change of myosin heavy chain gene expression and protein isoform transition in cardiac overloading." Am.J.Physiol.
• [文献書誌] 今村伸一郎: "一側性心臓圧負荷による負荷側心室筋および対側心室筋のミオシン重鎖遺伝子発現の制御" Jpn.Circ.J.53. 904 (1989)
• [文献書誌] 松岡瑠美子: "ヒトの心筋ミオシン重鎖(MHC)遺伝子の構造と染色体上の位置決定" Jpn.Circ.J.53. 904 (1989)
• [文献書誌] 松岡瑠美子: "心筋ミオシン重鎖遺伝子とその動態" 第53回日本循環器学会学術集会抄録1. 34 (1989)
• [文献書誌] 柴田利満: "異なった収縮速度をもつ摘出乳頭筋に及ぼすカテコ-ルアミンの影響" Jpn.Circ.J.53. 586 (1989)
• [文献書誌] 今村伸一郎: "右心室圧負荷解除後の心筋ミオシン重鎖アイソザイムの変換動態" Jpn.Circ.J.(1990)
• [文献書誌] 柴田利満: "後負荷が左室心筋収縮速度に及ぼす影響" Jpn.Circ.J.(1990)
• [文献書誌] Toshimitsu Shibata: "Developmental change in contractile rate of cardiac myofilaments and effect of isoproterenol on their rate." The 34th Annual Meeting,Biophysiological Society Baltimore.(1990)
• [文献書誌] 柴田利満: "摘出心室筋単収縮のTime-to-Peak Forceは心筋収縮速度を反映するか?" 第26回日本小児循環器学会抄録. (1990)
• [文献書誌] 吉田廸弘: "ヒト心筋ミオシン重鎖遺伝子(MYH6およびMYH7)の染色体マッピング" 日本人類遺伝学会第34回大会抄録. (1990)
• [文献書誌] 松岡瑠美子: "心臓の発達.臨床発達心臓病学(高尾篤良編集)" 中外医学社, 10-13 (1989)
• [文献書誌] Rumiko Matsuoka: "Molecular cloning and chromosomal localization of a gene coding for a cardiac myosin heavy-chain.In Etiology and Morphogenesis of Congenital Heart Disease." E.B.Clark and A.Takao,eds.,Futura,New York., (1990)
• [文献書誌] Shin-ichiro Imamura: "Adaptational changes of myosin heavy chain gene expression and isozyme transitions in cardiac overloading.In Etiology and Morphogenesis of Congenital Heart Disease." E.B.Clark and A.Takao,eds.,Futura,New york., (1990)
• [文献書誌] Rumiko Matsuoka: "Human cardiac myosin heavy-chain gene mapped within chromosomal region 14q11.2-q13.New Haven Human Gene Mapping Library Chromosome Plots." Yale University Howard Huges Medical Institute., 34-35 (1989)