研究概要 |
正常ヒト表皮細胞を培養し、その培養上清を用いた。正常ヒト表皮細胞の主として対数増殖に走化性活性の産生を認めた。この濾液高速ゲル濾過カラムを用い分析したところ、分子量約15,000の位置に白血球走化性活性のピ-クを認めた。活性は希釈倍数に依存し減少していた。活性は主としてchemotactic activityであったが、弱いながらもchemokineic activityも認めた。等電点は4.2であった。トリプシン処理により大部分の活性が失われた。zymosan活性化血清からゲル濾過クロマトグラフィ-により得たC5a/C5a des Argを含むフラクションと混合したところ、相乗効果を認めた。抗ILー1抗体を加えても白血球走化性活性の抑制は認められなかった。培養表皮細胞に種々の物質を作用させ、培養濾液の活性を調べたとこと、ILー1α,βで走化性活性の著明な増加がみとめられた。 このように、非刺激状態でも産生されている白血球走化性因子が表皮内でどの様な働きをしているか明らかでない。皮膚の起炎作用の知られているILー1によりその産生が著明に増加したことから、ILー1のメディエ-タ-となっている可能性は考えられる。一方、正常ヒト表皮細胞によりこのような白血球走化性因子が産生されているにもかかわらず、正常皮膚では白血球の浸潤が認められない。このように皮膚に白血球浸潤が無いことは、i)通常産生される程度の量では白血球の浸潤を引き起こすのには不十分なのか、あるいは、ii)ILー1に対するインヒビタ-と同様、この因子にたいする何らかの阻害因子が同時に産生されるため、炎症反応が抑えられているのか、あるいは、iii)生体内では酵素分解を受けやすいためなのか、今後の検討を要する。以上のように、ヒト正常表皮細胞では、好中球走化性因子が表皮の増殖に伴って産生され、皮膚の炎症の際にはこの因子が重要な役割を果しているに可能性が考えられる。
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