正常毛髪の毛ケラチン蛋白の生化学的分析では、4家系15人の結果を得た。毛ケラチン蛋白は、ケラチン線維蛋白(HFP)と非線維性基質蛋白(HMP)から成り、さらに後者は酸性のもの(a-HMP)と塩基性のもの(b-HMP)から成っていることが、今回の二次元電気泳動法で明らかとなった。このうち、HFPとb-HMPのポリペプチドスポットパタ-ンは、どの正常毛髪材料においても一定であったが、a-HMPのそれは多様性を示し、しかもそのパタ-ンは遺伝的に定められていると考えられた。この内容についてはArch.Dermatol.Res(1989)に報告した(裏面参照)。当初の計画では、これらの泳動スポットを画像処理システムにより定量化する筈であったが、実際に測定してみるとある程度の結果は得られるものの、バックグラウンドの誤差が大きく、統計処理が十分行えなかった。泳動パタ-ンの判定は、従来のごとく肉眼的所見によった。一方、異常毛髪の走査電顕的観察の結果、捻転毛、縮毛および後天性結節性裂毛と診断した症例の毛髪を同様に生化学的に分析した。縮毛と結節性裂毛のHFP、HMPは正常の泳動パタ-ンを示したが、捻転毛では、HFPとb-HMPは正常ではあるが、a-HMPは量的に非常に少ない異常パタ-ンを示した。この結果については第13回日本研究皮膚科学会年次学術大会(1988・7・福岡)で発表した。本研究者はこれまで陥入性裂毛、連珠毛、白輪毛、uncombable hair症候群や捻転毛などを走査電顕や透過電顕で検索し、発表してきたが、いずれにおいても、透過電顕で毛ケラチン線維自身の形態には異常がみられないことから、線維間物質を形成するとみられるHMPの異常が毛髪異常の重要な因子となりうると考えていた。今回の研究で、少なくともその一部はa-HMPの異常が示され、毛ケラチン蛋白の二次元電気泳動法は異常毛髪の成因の検索にきわめて有用と思われる。
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