正常頭皮膚の成長期毛器官を、透過型電子顕徴鏡で観察した。毛皮質細胞が角化帯下部の約150μw長の範囲でトリコヒアリン顆粒を産生することを見出した。また、ヘレン層の外側に接する外毛根鞘の最内の細胞がすでに毛球部から独自の分化を示し、独立した一層の細胞層を形成することが判明し、外毛根鞘最内層細胞層と名付けた。人種差としては、メラノソ-ムの数や成熟度の差異は、その他、非常に湾曲した形状の毛髪を有する黒人例の毛器官は毛包自体も著名に湾曲し、毛球部はそれとは逆に屈曲し、全体としてS字状を呈し、これは白人や日本人の毛器官との大きな差異であった。これは、おそらく結合織毛根鞘の発達の差異によると思われた。走査型および秀過型電顕による、陥入性裂毛、連球毛と白輪毛などの毛髪異常の検索では、いずれも毛皮質細胞に原因があると言えるが、互いに異なる細胞機能異常が存在することが判明した。正常人の毛髪材料の毛ケラチン蛋白分画を、二次元電元泳動法で、分析した。毛ケラチン線維の構成蛋白は、従来の報告に類似した泳動パタ-ンを示し、とくに個人差はみられなかった。一方、線維間物質とみられる蛋白は、酸性のポリペプチドグル-プ(aHMp)と塩基性のポリペプチドグル-プ(bHMP)に分けられた。このうち、bHMPはほとんど個人差を示さなかったが、aHMPの泳動パタ-ンは多様性を示し、同一家系内で類似の傾向がみられ、遺伝的に決定されているものと考えられた。陥入性裂毛の線維制蛋白を抽出して、一次元電気泳動法により分離したが、正常との差異を認めなかった。稔転毛のケラチン蛋白の分析では、線維蛋白とbHMPは正常であったが、aHMPは量的に非常に少ない異常パタ-ンを示した。同時に分析した後天性結節性裂毛では、いずれの蛋白分画も正常であった。
|