研究概要 |
ヒト細胞の腫瘍化にはゲノムの特定の遺伝子の異常、特に癌遺伝子あるいは癌抑制遺伝子の変異が密接に関与することが明らかにされつつある。本研究では、臨床の場において遭遇する各種の皮膚腫瘍を対象として、これらの遺伝子の異常を検討し、その臨床的意義や腫瘍化のメカニズムを明らかにしようとするものである。 本年度は、マウスの皮膚発癌の実験系においてその点突然変異が高頻度に見出されているHaーras遺伝子に焦点を当て、ヒトの表皮細胞由来の良性、悪性皮膚腫瘍におけるこのHaーras遺伝子の点突然変異について解析を行なった。まず、25例の表皮由来腫瘍組織(脂漏性角化症、ケラトアカント-マ、ボ-エン病、基底細胞上皮腫、有棘細胞癌)のパラフィン包埋切片よりDNAを抽出しHaーras遺伝子のコドン12,13,61を含む領域をPCR法により増幅し、予想される点突然変異を有する合成オリゴヌクレオチドをプロ-ブとしてハイブリダイゼ-ションをおこなった。その結果、ケラトアカント-マ、基底細胞上皮腫各一例にコドン61のA→T transversionが検出されたが、他の腫瘍では点突然変異は見出されなかった。この研究から、ヒト表皮腫瘍ではHaーras遺伝子の点突然変異は低頻度であり、ヒトの表皮細胞の病理学的特徴や腫瘍化と直接関わっているとは考えにくいものであった。この結果は、ヒト表皮細胞の腫瘍化はマウスにおける実験的表皮細胞腫瘍化のメカニズムとは異なることを示唆しており、ヒトの腫瘍細胞を解析する重要性を考えさせる。 現在、上記の癌遺伝子Haーrasの研究に加え、皮膚腫瘍における癌抑制遺伝子p53の構造異常について、p53遺伝子のなかで突然変異が多く観察される領域(Exon 4ー9の hot spots)について、PCR法とdirect sequencingを駆使して解析を進めている。
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