梅毒各症期の個々の患者を対象として、その加療後の血清を経時的に採取し、各血清中に出現してくるIgクラス抗体(IgM、IgA、IgG)並びにIgGサブクラス抗体(IgG1〜IgG4)と、SDSーPAGEで分離したTreponema pallidum Nichols株(TP)菌体抗原成分との反応性の動態をWesternーblot法を利用して検討した。各症期プ-ル血清を対象とした実験結果とは異なり、個々の患者血清に於ては、各種抗体とTP菌体成分との反応性にはかなりの個体差が存在しており、各症期に固有な反応性を示す抗原成分は検出されなかった。また症期を判別することが出来得るだけの症期固有のbandーpattern(profile)も断定出来なかった。全ての抗原成分は、IgM抗体との反応性が最も加療効果を反映していたが、IgM抗体が初診時から捕捉出来ないケ-スでは、IgAやIgGサブクラス抗体を代わりの指標とすることが有用であることが明らかになった。各症期の全ての患者血清に共通して強い反応性を示したいくつかの抗原成分の中から、特に加療に並行して減少する傾向を著明に示した56kd抗原と、その強い反応性が加療しても変化せず、むしろ増強されるケ-スもあった17kd抗原の2種の抗原成分については、これを単離・精製した。治療効果判定法に利用するモノクロ-ナル抗体の作製を試みたが、現在のところ有効な抗体は得られておらず、現在実験を継続中である。
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