小脳が大脳皮質の神経系の可塑性乃至記憶に関与しているかどうかについてまだ解決されていない。小脳歯状核は、対側の視床外側腹側核(VL核)を経由して対側の運動皮質に影響がおよんでいると考えられる。我々は扁桃核キンドリングを用いて、対側歯状核破壊群では、対照扁桃核キンドリング群と比較して、1.けいれんの全汎化の促進、2.後放電の持続時間の延長が軽微である事、3.自発性棘波数の増大が軽微である事を認めた。同側歯状核破壊群では、対照キンドリング群との比較で、キンドリング発展過程に差はなく、自発性スパイク数にも差がなく、後放電の延長は有意に短縮していた。同側破壊群と対側破壊群の比較では、キンドリングの発展過程と自発性棘波数に差があり、後放電に及ぼす影響は一致していた。従って、これらの事柄は、小脳歯状核が、大脳皮質でのキンドリング過程に密接に関与して居り、これらは、キンドリング発展過程、自発性棘波に反映され、小脳抑制系の減弱に対応する非特異的変化は、後放電の短縮に反映されると考えられた。 次に、キンドリング成立後に、刺激と対側の歯状核破壊を行なうとどのように影響を受けるか調べた所、後放電の持続時間、扁桃核(一次側及び二次側)の棘波数についてどの視標でも有意な変化を示さなかった。この事は、一旦キンドリングが成立した後には影響せず、発展過程に際して、小脳歯状核が関与しているであろうと考えられた。 更に一側視床VL核破壊後、同側扁桃核キンドリングを行なった所、対照キンドリングより早期に全汎化し、キンドリング発展過程が促進する一方、自発性棘波の増加に乏しく、対側歯状核破壊群と同様な変化を示した。しかし、後放電の持続時間の変化は認められなかった。これらの結果は、歯状核の影響が対側視床VL核を経由しているものと考えられた。
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