研究概要 |
これまでにわれわれが観察した前ロ-ランド動脈潅流領域の梗塞例およびロ-ランド潅流領域の梗塞例のうち,定型的な病巣分布を示すことが確認され,さらに詳細な失語検査と運動機能検査を施行し得たのは前ロ-ランド群の5例とロ-ランド群の2例である。この7例については,「文法障害と系列運動について」と題して神経心理学雑誌に投稿中,またこれらの一部を「前頭葉と統辞」と題して発表した(失語症研究,11;110ー115,1991)。この論文発表の中では,前ロ-ランド群(中心前回前半部とその前方がおされ下前頭回弁蓋部を含む病巣)は文法レベルでの文構成障害を示し,明瞭な麻痺や失行はないのに左右の手に強弱tappingなどの系列運動の障害を呈するのに対し,ロ-ランド群(中心前回後半部とその後方の病巣)は文構成障害は示さず構音面の障害が目立ち,運動面では右片麻痺が生じるが左手には系列運動障害は認められないことを報告した。また,前ロ-ランド群における文法レベルの障害と系列運動障害(強弱tapping)との強い関連性を指摘した。前ロ-ランド群とロ-ランド群はその失語症状および運動機能障害に関して対称的な相違を示すが,これには前者の病巣がBrodmannのarea 6とその前方に位置し,後者の病巣がBrodmannのarea 4とその後方に位置するという病変分布の違いが最も関与していることを指摘した。 平成3年度中に,新たに前ロ-ランド動脈潅流領域の梗塞例2例とロ-ランド動脈潅流領域の梗塞例1例を観察する機会があった。さらに前頭頂動脈潅流領域の梗塞巣,すなわち中心後回の後半部と頭頂前部の軟化を示す症例を初めて観察することができた。しかも,この症例は強い知覚障害,知覚性運動障害とともに,Broca失語に類似の音韻変化が認められた。Broca失語にみられる構音面の異常が中心溝より後方の病変でも生じうることが示唆された。これらの症例についても発表を予定している。
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