ヒトの睡眠障害の一分野をしめる、維持障害の原因は現在最も不明な点の多いところである。この睡眠維持障害のレベルを、的確に科学的に数量化し、検査手段として確立することを目的として、NREM睡眠維持機能を反映していると思われる紡錘波と深睡眠の指標である高振幅δ波の構造要素を調べた。さらに、睡眠の維持・安定性のレベルを科学的に測定できる可能性をさぐるとともに、睡眠維持のメカニズムとの間の関係を解明することを目的とした。本年度は67歳から88歳までの老人5名と40歳から60歳までの中高年者5名について基準夜3夜と昼寝を負荷した後の終夜2夜の睡眠ポリグラフ記録を行なった。これらの記録のついて、紡錘波・δ波自動分析装置により基準夜、昼間睡眠、昼寝負荷後の終夜睡眠での紡錘波、高振幅δ波の構造要素の解析を行なった。昨年度の研究で作成した若年健常者群で紡錘波と高振幅δ波の構造要素の基準値と、老人のそれと比較し、老人で紡錘波の持続が短縮し、周波数が速くなっており、1.5Hz以下150μV以上の超低周波高振幅徐波の出現比率が加齢に対応して減少することを見いだした。昼寝の負荷後の終夜睡眠では、中高年群、老人群とも紡錘波の周波数が速くなり、老人群では紡錘波の持続の短縮が認められた。紡錘波周波数と超低周波高振幅徐波に対する昼寝の負荷による睡眠維持機能の撹乱の効果は、高齢化するほど顕著であった。最近、紡錘波発現機構と覚醒機構との関連性が神経生理学的研究から報告されており、睡眠中の覚醒機構のアクティビティのレベルを紡錘波周波数が反映し、超低周波高振幅睡眠徐波が睡眠機構のアクティビティを反映している可能性が考えられ、睡眠維持障害の原因の一つが、覚醒機構と睡眠機構とのバランスの乱れに起因することが考えられた。
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