研究概要 |
糖尿病性神経症の成因としては,細小血管症,ポリオ-ル代謝異常などが考えられているが,脂質代謝異常による可能性も否定できない。私共はラット坐骨神経に損傷を加えた時,神経損傷約1週間後位より著明なアポEの分泌増加を認めた。特に糖尿病ラットにおいてはストレプトゾトシン投与と同時に神経損傷を加えた場合,10倍以上顕著なアポEの分泌増加を認めた。アポEは血中コレステロ-ル代謝において重要な役割を果していると考えられている。即ちアポEはLDLレセプタ-に対して強い親和性をもつことから,アポEを有するリポ蛋白はレセプタ-を介して用意に組織により利用されることになる。さらにアポEは全身の諸臓器において合成分泌されており,各組織における脂質の運搬,供給において主要な役割を果たしている。特に脳神経系においては,活発なアポE分泌が行われ,アポEを介して脂質は細胞表面上のLDLレセプタ-により細胞へと分配されている。末梢神経における神経損傷後のアポE分泌は,神経損傷に伴う余剰脂質の再分配や神経再生時の脂質補給に重要な役割を果たしている。糖尿病におけるアポEの役割を明確にする為に,今回はさらに糖尿病ラット作製後1ヶ月後に神経損傷を作成して検討を行った。非糖尿病群に比較して有意なアポE分泌の増加を認め,その分泌増加はインスリン投与により改善をみた。従って糖代謝異常に伴い,損傷神経においては通常より,より多くのアポE分泌が行われ糖尿病性神経症の成因に関与している。さらに自然発症糖尿病ラットにおいては,神経損傷を加えなくても,神経よりのアポE分泌を認め,糖尿病状態における神経症へのアポEの関与をさらに強く示唆した。
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