インスリンは膵B細胞のみで生成され、インスリン遺伝子の発現は、組織特異的に制御されていると考えられる。そこで膵外細胞において、ヒトインスリン遺伝子か5′上流域により、いかにその発現調節が行なわれているか解析した。〔方法〕バクテリアのクロラムフェニコ-ル・アセチルトランスフェラ-ゼ(CAT)遺伝子を含む複合発現ベクタ-(pSVOCAT)に種々のDNA断片を連結してCATベクタ-を作製した。すなわち、pSVOCATにインスリン遺伝子プロモ-タ-を連結したもの(pHICAT)、プロモ-タ-とエンハンサ-領域を連結したものを作製し、さらにpHICATに約700塩基対、及び約2キロ塩基対の反復配列を順方向又は逆方向に連結したものを作製した。これらのプラスミドを膵外細胞にリン酸カリウシム沈澱法によりトランスフェクションした。一日培養後、CAMPアナログ、フォルボ-ルエステル、種々の濃度のブドウ糖を負荷した。さらに一日培養後、細胞成分を抽出し、CAT活性を測定した。〔結果〕エンハンサ-領域をpHICATに連結するとプロモ-タ-単独に比してCAT活性は著明に低下した。しかし細胞内cAMP濃度を上昇させるとこの抑制効果は減弱した。他の薬剤によってはCAT活性の変化は認めなかった。反復配列を連結するとプロモ-タ-単独に比してCAT活性は約20%に減弱し、逆方向の連結でも同様の効果が認められた。しかしエンハンサ-領域と異なり、細胞内CAMP濃度の上昇による影響は認められなかった。〔結論〕エンハンサ-領域は膵外細胞で遺伝子発現抑制効果を示したが、cAMP負荷によりこの抑制効果は解除されたので、この領域単独では膵外細胞におけるインスリン遺伝子の発現を完全に抑制するには不十分と推測される。
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