グルココルチコイド受容体蛋白の先天性異常により、コルチゾ-ルに対する感受性が低い症例がある。このような症例は血中コルチゾ-ル濃度が高値であるにも関わらずクッシング症候群を呈しない。臨床上、家族性コルチゾ-ル抵抗症として認識される。われわれは、この病態をもつ一家系をみいだした(1985年)。本症はきわめて稀な病態と考えられる。われわれの報告した家系では受容体の数が正常の半分に減少していた。すなわち、受容体量の異常である点が特異である。この異常の本態を明らかにするため、本家系例の末梢リンパ球をEpsteinーBarr virusにより形質転換した。そしてその細胞のグルココルチコイド受容体の性状を調べた。コルチゾ-ル抵抗症を示す本家系中の二例では本細胞のグルココルチコイド結合能がやはり半減していた。本細胞においてグルココルチコイド受容体に関する分子遺伝学的解析をすすめた。デキサメサゾンミジィレイトでラベルした本症例のグルココルチコイド受容体は正常と同じ分子量であった。Western blot解析でも患者グルココルチコイド受容体の分子量は正常であった。しかし、蛋白量は半減していた。Northern blot解析では、患者細胞のグルココルチコイド受容体mRNAのサイズは正常であり、発現量も正常であった。これらの結果から、本症例においては、グルココルチコイド受容体遺伝子の転写には異常がないこと、そして、正常の受容体蛋白が合成されないような変異遺伝子が存在する可能性が示唆された。
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