研究概要 |
癌細胞において癌遺伝子に種々の異常がみられることが報告されている。種々の癌遺伝子の欠失,再配列,点突然変異等がそれである。甲状腺癌細胞においても,myc,ras,erfA,erfBなどの癌遺伝子の異常が報告され,我々の研究でも同様の結果を得ている。 レチノ-ル酸(ビタミンA)は細胞の増殖,分化の調節に重要な役割を果している。前癌状能細胞の増殖を抑制し、正常機能の分化へ誘導することが,種々の細胞で報告されている。 そこで,甲状腺癌細胞における癌遺伝子の検索,ならびにレチノ-酸の影響について研究を行ってきた。 甲状腺乳頭癌の細胞株PCTについて調べた。本細胞にはサイログロブリン,およべ甲状腺のベルオキシダ-ゼのmRNAは検出できず,これら遺伝子の発現はみられなかった。この細胞について,受容体チロシンカイネ-ス型の癌遺伝子retの再配列を認めた。ヒト甲状腺癌組織を用いてこのret癌遺伝子を検索したところ,異常を発見できなかった。 他の甲状腺癌細胞株,WROを用いた実験を行った。この細胞にTSHは結合したが,cAMPの増加は認められず,TSH受容体とcAMP産生系の間に異常が発見された。サイログロブリンのmRNAは検出できたが甲状腺ベルオキシデ-スのmRNAは検出できなかった。この細胞のcmyc癌遺伝子の増幅が見出され,異常増殖にこのcmyc癌遺伝子の増幅が関与していることがうかがえた。そこで,レチノ-ル酸を加えたところ,このcmycの増殖は抑制され,細胞増殖も抑制された。 すなはち,レチノ-ル酸が,甲状腺癌細胞のcmyc癌遺伝子の異常発現を抑制することにより,癌細胞の増殖抑制作用のあることが示唆された。
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