未分化な先駆細胞が分化する際、その周囲の細胞外基質の顕著な再構築を伴う場合があり、筋肉、脂肪組織などはその代表的な例である。これらの先駆細胞はフィブロネクチン、I型コラゲンを主体とする基質をもつが、分化に伴ってIV型コラゲン、ラミニン、などを主成分とする基底膜にとって替わられる。 我々が分離樹立したマウス前脂肪細胞ST13は白色脂肪細胞の先駆細胞として知られている。未分化ST13細胞は多量のフィブロネクチンを産生分泌する。ところが分化誘導するフィブロネクチンの産生が停止するのみならず既存のフィブロネクチン基質までも消失することを我々は間接蛍光抗体法およびラジオイムノアッセイ法により初めて明らかにした。この現象は生体内での基質再構築をin vitroで再現したものと考えている。このフィブロネクチンの消失を、2種類のプロテア-ゼ阻害剤ベスタチン及びnafamostat mesilateが低濃度で防ぎ、かつ分化を阻害することを見いだした。この結果は細胞外プロテア-ゼの産生が脂肪細胞の分化に必要な過程であることを示している。さらに分化誘導に伴って産生されるプロテア-ゼによってフィブロネクチンの消化と基質の再構築が起きることを示唆している。この分化誘導に伴って産生されるプロテア-ゼの実態は、adipisinは1つの候補であるが、いまだ不明である。前脂肪細胞から脂肪細胞への分化過程における細胞外基質の役割を解明するために、さらに今後このプロテア-ゼを分子レベルで明らかにすることが必要と思われる。
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