B19パルボウイルスは、溶血性貧血の患者に感染して急性の骨髄抑制(acute aplastic crisis)を起こすだけでなく、免疫能の低下した患者では慢性骨髄不全を引き起こすことが明らかとなり注目されている。我々は、このB19ウイルスの遺伝子産物のうち、ウイルス非構造(NS)蛋白が細胞障害の原因であることを既に明らかにしているが、本研究ではさらに、このNS蛋白発現プラスミドのミュ-タントを多数構築し、DNAトランスフェクションにより細胞内へ導入し、各プラスミドの細胞障害作用の有無を調べた。その結果、NS蛋白のC末端が20%除去された程度では細胞障害作用に影響がなく、40%除去するとその作用を失ったことから、NS蛋白の活性ドメインの部位が限定されてきた。また、NS蛋白発現誘導実験に関しては、当初メタロチオネイン・プロモ-タ-を用いたプラスミドの構築を行ったが、誘導物質により細胞障害が惹起されるような細胞クロ-ンは得られなかった。そこで次に、顆粒球コロニ-刺激因子(G-CSF)のプロモ-タ-と誘導物質としてインタ-ロイキン1(IL-1)を用いた同様の実験を行っている。第3に、B19ウイルスのinvitroでの増殖を支持する株化培養細胞はこれまで知られていなかったが、今回、赤血球系への分化傾向の強いJK-1という赤芽球系細胞株を用いると、B19ウイルスの複製が起こることを明らかにした。このJK-1細胞は、B19ウイルスの細胞特異性や細胞障害作用の遺伝子解析を進めていく上で極めて有用と考えられ、この細胞におけるB19ウィルスの増殖動態に関する詳細な検討を行った。以上、B19ウイルスによる造血障害の研究は、多少の計画変更はあったものの、着実な進展がみられた。
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