研究計画の最初の目的であったホスホリパ-ゼA_2様活性による膜燐資質からのアラキドン酸放出機構とC-キナ-ゼ活性との関連については、当初予想していた程問題は単純ではない事が明らかとなった。即ち、血小板を予めC-キナ-ゼの活性化剤(ホルボルエステルなど)で処理し、C-キナ-ゼを活性化したところにカルシウムイオノフォアやトロンビンを加えて血小板を刺激するとアラキドン酸(AA)や血小板活性化因子(PAF)の放出は亢進するので、ホスホリパ-ゼA_2の活性亢進が生じる。しかし、逆にC-キナ-ゼ活性の阻害剤を加えてトロンビンやイオノフォア刺激を加えても予想される様なAAやPAFの放出の抑制は観察されない。この事から少なくともトロンビンやイオノフォア刺激によるホスホリパ-ゼA_2の活性化にC-キナ-ゼは関与していない事になる。そこで、残された可能性としては、AA放出を刺激しないがC-キナ-ゼを活性化する何らかの刺激因子が存在し、トロンビンなどによるAA放出を協調的に制御する事、あるいはC-キナ-ゼはホスホリパ-ゼA_2の直接的な制御に関わっているのではなく、むしろG蛋白などの系などを制御し、間接的に関わっている事などがあり、これらを支持する所見が得られつつある。その他には、チロシンキナ-ゼ活性とホスホリパ-ゼA_2やC系との関連を検討中である。特にチロシンキナ-ゼ活性化機序に関しては、トロンビン受容体を介するがG蛋白を介しない系とカルシウム代謝により活性化する系とがある事を見出している。pp60^<C-Src>というチロンシンキナ-ゼは血小板膜に多く存在する事がわかっているが、我々の知見から既知の細胞内刺激伝導系とチロシンキナ-ゼとの接点が明らかになると考えられ、それらからC-キナ-ゼやチロシンキナ-ゼによるホスホリパ-ゼA_2やC系の制御を明らかにする方向を今後の研究計画に組み入れていく予定である。
|