前年度の後半期より検討していた血小板の蛋白チロシン燐酸化反応について、本年度は研究の進展がみられたので、主にその方向に研究の力点を移すことになった。これまで血小板の蛋白チロシン燐酸化反応はトロンビンやコラ-ゲン刺激によって生じることが報じられていたが、その機序の詳細は明らかではなかった。そこでまずトロンビン刺激による血小板の蛋白チロシン燐酸化反応とGTP結合蛋白や細胞内カルシウムの関係を検討した。血小板をサポニンで処理し、膜に透過性を生じさせた後、GTP結合蛋白の阻害剤であるGDPBSを加えた。この操作でGTP結合蛋白が阻害された血小板にトロンビン刺激を加えたが蛋白チロシン燐酸化反応は全く阻害されなかった。次に細胞内カルシウムのキレ-ト剤であるBAPTAで血小板を処理し、細胞内カルシウムをキレ-トした血小板にトロンビン刺激を加えたが、蛋白チロシン燐酸化反応は全く阻害されなかった。これらのことから、トロンビン刺激による血小板の蛋白チロシン燐酸化反応はGTP結合蛋白や細胞内カルシウムに依存しないことが明らかとなった。しかし、カルシウムイオノフォア刺激により血小板は蛋白チロシン燐酸化反応を起こすことを見出した。このイオノフォア刺激による蛋白チロシン燐酸化反応は細胞外カルシウムをキレ-トしても阻害されなかったが、BAPTA処理により細胞内カルシウムをキレ-トすると完全に阻害された。このことから細胞内カルシウムの上昇により血小板の蛋白チロシン燐酸化反応は生じることが明らかとなった。本年度は、この細胞内カルシウムに依存性と非依存性の血小板の蛋白チロシン燐酸化反応について、その機序の詳細と、細胞内シグナル伝導系との関連を検討してゆく計画である。
|