研究概要 |
骨髄性白血病細胞の分化誘導時における分子機構の解明のために、ヒト前骨髄性白血病細胞HL-60単球系への分化誘導因子である腫瘍壊死因子(TNF)の生理活性発現機序を、因子-受容体結合及び細胞内情報伝達機構との関連から検討し、以下の実験的事実を得た。 1.ヒト遺伝子組換え型TNFをBolton-Hunter法により^<125>I標識しHL-60細胞膜上の受容体との複合体を架橋剤を用いて分離抽出、SDS-PAGE解析によりTNFの高親和性受容体関連蛋白と考えられる分子量約78KDaの膜蛋白を同定した。 2.培養系におけるkibutyryl cyclic AMP(dbcAMP)及び細胞内cyclicAMPの濃度を上昇させ得る物質(Fardkolin,cholera toxin,prostaglandin E_1,E_2)の共存下ではTNFの生理活性は著しく上昇した。 3.HL-60細胞をmyo[^3H]inositolで標識し、TNF添加後のphosphatidylinositol(PI)代謝産物(inositol phosphates)を分別半定量、因子-受容体結合直後のPI代謝回転の亢進を明らかにし得た。 4.protein kinase CのactivatorであるTPAの共存下ではTNFの生理活性は相加的促進効果を得た。 5.TPAとdbcAMPの共存下ではTNFの生理活性は著しく上昇した。 これらの結果より、TNFによるHL-60の単球系への分化誘導は,TNFと細胞膜上の分子量約78kDaの高親和性受容体との結合を介し,細胞内情報伝達機構としてはA kinase系、C kinase系のmonodirectional systemによる受容応答系であることが示唆された。更に、細胞内情報伝達系の最終段階である遺伝子発現の調節機構と関連の深いDNA結合性癌遺伝子産物(c-myc,c-mub,c-fos)の動態について現在検討中である。
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