我々は遺伝子操作技術を応用し、白血病細胞株からつくられたcDNAライブラリ-を用いて白血病細胞と正常細胞からそれぞれ得られたmRNAよりcDNAプロ-ブをつくり、スクリ-ニングして白血病のマ-カ-となりうる遺伝子をクロ-ニングしてその特徴を検討している。 平成元年度には、急性骨髄性白血病細胞株HL60よりつくられたcDNAライブラリ-を用いて約5000クロ-ンをスクリ-ニングし、数個の白血病細胞に多量発現され、正常顆粒球に微量又は、全く発現されないいくつかの遺伝子を得た。これらクロ-ンの1つ、FD3Aの全核酸配列を決定し、この遺伝子がミトコンドリアunidentified open reading frame2(URF2)遺伝子であることを確認した。また多数の白血病細胞でこの遺伝子が確かに急性骨髄性白血病のdifferentially expressed geneであることを確認した。さらにこのURF_2geneの正常ミトコンドリア遺伝子からの核酸配列の変異も数個確認できた。以上より平成元年度に予定された当初の計画は達成されたと考える。学術上の問題としてミトコンドリアの遺伝子発現が悪性細胞、ことに急性骨髄性白血病で多量発現されるということは次の2点できわめて興味深い。第一は、白血病細胞におけるミトコンドリアの電子伝達や酸化的リン酸化がその細胞特性と関与する可能性があるという点、第二は、顆粒球系白血病細胞のcell lineageに特殊なミトコンドリア遺伝子の活性化が関与することによりヒトの核遺伝子がミトコンドリアを制御する可能性があるという点である。これらは全く新しい研究的な分野をひらく可能性があると考えられる。 さらに、急性リンパ性白血病細胞より分離されたサイモシンβ、遺伝子の骨髄性白血病細胞と骨髄性白血病由来の細胞株における発現機序の検討も合せて進行中である。
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