研究概要 |
代用血管を用いた血行再建の遠隔成積を不良とする晩期閉塞の原因に吻合部内膜肥厚があるが、この発生機序を解明して予防法を確立するために犬の頸動脈に小口径人工血管を移植し、様々な条件下に内膜肥厚の発生様式を観察するとともに、人工血管の移植を行った。臨床例を対象に長期開存成積と内膜肥厚との関連性について分析した。本年度は下記の研究結果を得た。 1.物性が近似で表面構造の異なる人工血管の移植実験では多孔構造のものが良好な開存成積を示し、吻合部内膜肥厚も軽度であった。同時に行った血小板シンチによる人工血管表面に附着する血小板の検索で、血小板集積の少ない人工血管は開存率、内膜肥厚抑制共良好であり、肥厚発生の一因として人工血管の構造によって規定される抗血栓性、即ち血小板集積程度の関与が示唆された。 2.縫合材料,縫合方法による吻合部組織治癒と内膜肥厚との関連性を検討するため、従来法による吻合とレ-ザ-吻合との比較を行った。レ-ザ-吻合では吻合部創治癒は良好で早期に内、中膜の円滑な治癒が認められ、縫合操作による宿主動脈の内皮細胞損傷を少なくして内膜肥厚を防止する方法として有効である可能性が推測された。 3.臨床例の分析では内膜肥厚の発生要因として使用人工血管,血流状態の違いなどが考えられた。肥厚防止の薬物療法として抗血小板剤の効果の検討では、抗血小板剤の投与によって内膜肥厚はある程度抑制される傾向はあるが、完全には抑制し得なかった。 4.吻合部内膜肥厚は生体と移植人工血管との間の相互作用の結果発生し、人工血管の特性、吻合法による宿主動脈内皮細胞障害、血小板集積、などが要因として考えられた。
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