研究概要 |
外科侵襲下の蛋白アミノ酸代謝における腸管の役割の重要性を明らかにする目的で以下の実験を行い、それぞれの結果を得た。 実験1.胃切除ラットモデルを用いて経腸栄養法と経静脈栄養法が蛋白代謝に及ぼす効果を安定同位体15N-グリシンを用いて検討した。〔結果〕経腸栄養法では経静脈栄養法に比較して、全身蛋白代謝回転率、全身蛋白崩壊率、また腓腹筋、腹直筋創部、小腸の蛋白合成に良好な影響を与えることが判明した。また、侵襲ホルモンであるカテコラミンの分泌を軽減し、腸管免疫能、全身免疫能にも良好な影響を与えていた。 実験2.雑種成犬を開腹し、手術終了直後と術後1日目に肝動脈、門脈、肝静脈の血流量とアミノ酸濃度を測定して、腸、肝でのアミノ酸出納を算出した。〔結果〕術後1日目では腸,肝でのアミノ酸代謝は術後よりも亢進し、肝での活発なアミノ酸の取込みが認められた。この際、腸管はアミノ酸供給臓器のひとつとして重要な役割を果たしていた。また腸管自らはグルタミンをさかんに取込み、エネルギ-基質として利用していることが示唆された。その上でさらにグルタミンをアラニンへ変換して放出、これを肝臓が摂取するという腸・肝の密接な相互関係の存在も明らかとなった。 実験3.術後の敗血症を想定して、敗血症時に放出されるメディエ-タ-IL-1を開腹術後犬に投与し、腸、肝でのアミノ酸代謝を実験2と同様の方法で検討した。〔結果〕グルタミンが腸管へいっそう取込まれ、高度侵襲下での腸管におけるグルタミンの利用亢進が示唆された。 以上のごとく侵襲時に腸管が重要な役割を果たすこと明確となり、また侵襲時腸管ではグルタミンの要求が高まっていることが示唆された。今後侵襲時に腸管の働きをいっそう活発にすると期待されるグルタミンを投与し、腸や全身の蛋白アミノ酸代謝を検討する計画である。
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