従来は侵襲後のアミノ酸・蛋白代謝では末梢骨格筋から供給されるアミノ酸が肝臓でネルギ-産生や蛋白合成に利用されるというアミノ酸・蛋白の“末梢骨格筋-肝"経路が重要視されてきた。しかし、蛋白回転率の速い消化管組織は筋組織にくらべて急激なストレスに対してより適応性を有しており、消化管はストレス時にはその迅速かつ効率的な代謝特性を生かして、優れたアミノ酸・窒素の供給源となりうると考えられる。本研究では、重症外科侵襲生体でのアミノ酸・蛋白代謝への消化管の関与を明確にし、この消化管を中心とした代謝病態にもとずく治療法の開発を目的とした。 平成元年度の実績として(1)胃切除ラットでの術後の経腸栄養と経静脈栄養を比較し、術後に消化管組織の蛋白合成率が高いほど、肝臓の蛋白合成率は亢進し、かつ筋蛋白の崩壊が少いこと、(2)無麻酔・意識下開腹犬の術後には、腸管からのアミノ酸の放出と肝臓での摂取の亢進が認められたが判明した。 平成2年度には、外科侵襲のメヂエ-タとして注目されているILー1とTNFの腸管のアミノ酸代謝に及ぼす影響を、無麻酔・意識下犬で検討した。ILー1とTNFはそれぞれ単独で5μg/kg/時を持続的に2時間にわたって静脈内に投与した。その結果、ILー1投与では腹腔領域の血流量は増加し、また腸管でのグルタミン摂取の増加、アラニン放出の増加が認められた。これに対し、TNF投与では逆に腹腔領域の血流量を減少させ、また腸管での各アミノ酸の有意な変動はみられなかった。このことから、外科侵襲時のメジエ-タであるサイトカインでも同量の投与では、TNFではなく、ILー1が腸管のアミノ酸・蛋白代謝を活発化することが明らかとなった。本研究で得られた成績は今後の重症外科侵襲生体での新しい栄養管理法の開発に役立つと考えられる。
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