研究概要 |
外科的に根治摘除不能な転移巣を形成した進行神経芽腫の治療において、原発腫瘍の全摘除が遺残腫瘍(転移腫瘍)の増殖を促進し予後不良の原因となる場合のある事が報告されている。しかし、原発腫瘍と転移腫瘍相互の増殖制御の発生機序は不明である。本研究は、進行神経芽腫における原発巣摘除に伴う遺残腫瘍の増殖促進の機序を解明し、術前後の効果的な補助化学療法の方法を開発する事を目的とした。 現在までに得られた本研究に関する成果は以下のとうりである。1).進行神経芽腫の治療で、原発巣摘除後に遺残腫瘍(転移巣)が急速に増殖し予後不良となる例のある事を臨床的研究により示した。2).Cー1300マウス神経芽腫をマウスの大腿部と側胸部皮下に同時移植する実験系用いて、大腿部腫瘍の切除後に胸部の遺残腫瘍の増殖が有意に盛んに成る事を実験的に示した。又、フロ-サイトメトリ-を用いた遺残腫瘍細胞のDNAの解析で、大腿部移植腫瘍の切除後に遺残腫瘍の休止期細胞が細胞回転に導入され、DNA合成期の細胞分画が増加する事を示した。3).上記実験系において癌細胞よりの液性因子PGE_2が、腫瘍縮小術後に一過性に増加する事を示した(N.S.)。4).前記の動物実験系で、遺残腫瘍のDNA合成期に同調させてSーphase特異的な抗癌剤を用いる事で、遺残腫瘍の増殖が有意に抑制される事を示した。5).臨床例では、手術前に化学療法を行い腫瘍の十分な縮小と宿主免疫状態の改善が治療成績の向上につながる事を示した。6).一才以下で病期I,II,IVーsの神経芽腫はヌ-ドマウスへの移植が生着せず、生物学的な差異が観察された。7).最近の予後因子(染色体、Nーmyc、NSE)よりの検討で、一才以下で発見される神経芽腫は予後良好の所見を示し、一才以後で発見される神経芽腫と生物学的特性が異なる可能性を示唆した。8).Adoptive immunoーtherapyについてはその可能性が示唆される段階である。
|