1.植皮に関する従来の研究方法では、完全に構築された表皮を研究の対象としているため、個々の表皮細胞が異所的な場におかれて、どのような運命をたどるのかについては研究されていない。今回、ラットの表皮下に遊離表皮細胞の自家移植を行い、個々の移植表皮細胞の増殖と分化を電子顕微鏡にて観察した。 2.実験方法:ラットの両側耳介を切離し、軟骨徐去後トリプシン処理して、表皮細胞浮遊液を作成する。FBS添加MEMを加えて濾過した後、PBS溶液で洗浄して表皮細胞懸濁液を作成し、それをラットの背部皮下に注射し、経時的に生検を施行した。 3.結果とまとめ:注入後の遊離表皮細胞は12時間〜1日目には表皮細胞の増殖による表皮様構築がみられ、細胞間結合の障害となる角化物などを貧食する表皮細胞もみられた。2-3日目には、表皮様構築が完成し、中央に角化物のみられるネストを形成した。ネストの最外層の表皮細胞では、基底板の形成が3日目頃より始まり、5日目には完成した。7日目には、いわゆる表皮嚢腫構造を呈したが、その表皮細胞壁をつつむように多数の線維芽細胞が、周囲をとり囲んでいた。表皮細胞層の菲薄化は更に進み、21日目には嚢種構造は消失していた。移植後3日目頃までの表皮細胞の増殖および表皮様構築は、順調に行われたが、7日目以後は、急速に分化が亢進していった。つまり、表皮細胞の分化が促進され、その反面増殖が抑制されるような内部環境の生成が、このような表皮嚢腫消滅の1つの要因になり得るものと考えられた。今後、さらにこの内部環境について調べてみたい。
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