研究概要 |
癌細胞は血行性転移の時、細胞外マトリックスの細胞結合ドメインを利用すると報告されている。これら細胞外マトリックスのうち,ファイブロネクチンとラミニンでは複数の細胞結合ドメインが判明している。ファイブロネクチンでは、GRGDS(GlyーArgーGlyーAspーSer)とEILDVPST(GluーIleーLeuーAspーValーProーSerーThr)であり、ラミニンでは、Y1GSR(TyrーIleーGlyーSerーArg)とIKVAV(IleーLysーValーAlaーVal)である。なお、その以外にも幾つかの細胞結合ドメインが存在することが判明している。これらのドメインペプチドを使用して、癌細胞が標的臓器に着床するのを競合阻害できるかどうかを検討している。本年度は肝癌、大腸癌、胃癌、膵癌、悪性黒色腫、線維肉種などのヒト培養細胞を使用して、血管内皮細胞表面に存在するファイブロネクチンや基底膜に多量に存在するラシニンに、癌細胞が接着伸転するのが、前途の細胞結合ドメインペプチドにより防げられるかどうかを、in vitroにて検討した。GRGDSとYIGSRは、肝癌、悪性黒色腫、線維内腫のファイブロネクチンやラミニンへの接着、伸展を阻害した。EILDVPSTの方は、亜性黒色腫の阻害しかできなかった。また、これら癌細胞のケモタキシスの阻害についても、接着伸転阻害と、ほぼ同様の結果が出ている。膵癌は,ファイブロネクチンとラミニンの蛋白自体に対して接着するが、充分な伸転を示さなかった。従って今回の細胞結合ドメインペプチドは、膵癌については、殆んど効果がないと考えられた.胃癌と大腸癌については検討中である。IKVAVについては、悪性黒色腫や線維肉腫では、接着伸転阻害を示している。現在,in vitroにおいてGRGDSとYIGSRが有効と思われた肝癌に関して、in vivoにおいて研究を始めている.
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