外来神経切除後の大腸壁内自律神経の変性と再生現象の課程をみる目的でイヌを用い尾側腸間膜動脈に随行している腰部結腸神経(交感神経)と骨盤神経叢より分枝する直腸枝(副交感神経)を切除し光顕的・電顕的に観察した。いずれの神経を切除した場合にも神経切除後24時間目頃より変性が認められ、筋層内の平滑筋細胞間に介在する無髄神経および筋間神経叢ないの神経節細胞に近接する軸索終末に変性が顕著であった。特に、副交感神経切除後、最も著明な変化は縦走筋・内輪筋の間に分析する小径髄神経を含む神経束の変化であり、知覚系に関与するこれら有髄線維のミエリン鞘の崩壊やSchwann細胞の増加などが認められた。一方、再生線維の出現を観察すると、切除後3ヵ月目頃から変性軸索に介在して小径の再生軸索が観察されるようになったが、6ヶ月目にも再生軸索の密度は低く、軸索径も小さいため機能的再生にはそれ以上の期間を要する事が推察された。しかし、これら外来神経切除後の大腸壁内自律神経の変性所見は研究当初に予想したほど高度の変化ではなく、実際の臨床で経験される腸管の異常運動を裏付ける所見は得られなかった。そこで、次に、骨盤入口部において直腸の切離・吻合を行ない、一週目、3ヶ月目、6ヶ月目に標本を採取し、HE染色、Bodian染色、cresylviolet染色、GFAP免疫染色を行ない観察したところ、光顕所見でも明らかな筋間神経叢の変性像が観察された。すなわち、筋間神経叢は全体に空胞様の間隙が目立ち、粗な構造を示し、神経細胞は軸索反応を示すもの、核・細胞質ともに萎縮し濃染するものなどが認められ、その範囲は上行性に近位結腸まで及んだ。また、経時的観察では3ヵ月頃より健常例(対照例)に近い形態をとる例も認められた。以上の事より、大腸壁内自律神経の変性には外来神経の損傷以外に腸管の離断そのものが強く関与していることが示唆された。
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