下喉頭から胃までの長い距離を遊離腸管移植によって一期的に再建する技術面の完成を目標に、成犬を用いて基礎実験を行ってきたが、成犬は人間と異なり小腸の腸間膜が短いために長い距離の小腸茎を作成するとル-プを描き、食物の通過には不利になることがわかった。従って結腸を用いた遊離移植に変更するか、或いは機能面は犠牲にして腸管の生着のみを追求するかは難しいところである。両面からのアプロ-チが必要と思われる。さらに長い距離の遊離腸管移植においては、移植床となる血管の選択が限られるため、腸管膜血管との吻合が難しくなる。この問題を解決するには細小径の人工血管の開発にかかっているが、それまでの間自家静脈移植や、大血管との端側吻合法などに頼らざるを得ない。細小血管におけるこれらの吻合は、開存率を100%近くに保つには技術的に解決しなければならない問題がいくつかある。顕微鏡下に微小血管吻合法の技術を用いてラットにおいて血管吻合の様々な型による開存率の違いを実験的に確かめ、最適な方法を開発する予定である。 また臨床面においての応用であるが、これまでの間適応となる症例に恵まれなかった。現在考えられる適応として下喉頭食道重複癌、胃切除食道癌、食道の一次再建失敗例における二次再建などが挙げられる。臨床において実施するにあたり、食物の通過に対する機能や逆流の有無と言った生理学的検討が必要となる。これから成犬およびラットの実験系の中に、生理機能面からのアプロ-チを可能とすべく、内圧、pH、組織酸素分圧、レ-ザ-ドップラ-を用いた循環面の検討などを行うべき項目は多い。できる限りの範囲でこれらの問題を1つ1つ解決していく所存である。
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